家に帰ると玄関の鍵は開けっ放しだった。

 扉を開けて真っ先に目についたのは、ピンクのピンヒール。
 爪先は扉に向けて揃えられてる。

 一度っきり訪れたあのボロ家で、俺の靴を屈んで揃えてた葉山さんを覚えてる。

 ヒールを横目に自分も靴を脱ぐと、そっとリビングの出入口の陰に立った。

 聞こえてきたのは成実の声。
 俺と付き合ってるって。
 成実のやつ、勝手に押しかけてきて何を宣言してんだか。

 それでも黙ってここに立ってるのは、反応が知りたかったから。
 ほんの少しでも、妬いてくれるんじゃないかって。
 あり得ない期待してる。
 いつまでも相当に女々しい。

 沈黙が流れた。
 今、葉山さんの表情が見える成実が無性に羨ましい。

 少しして葉山さんは自分のせいだと謝った。
 記事は誤解、デートでもなんでもないって。

 その通り、間違ってない…

 勝手に期待してる自分も、葉山さんに謝らせてる自分にも腹が立った。
 普通に生活してたら、あんな下衆な週刊誌に載ったりしない。

 その直後、成実に話して聞かせたのは親父の魅力?

 あの日、俺が迎えに行くのを懸念した親父。
 分かってる。
 親父なら葉山さんを包むように守ってやれるだろう。

 もう分かったから…やめろ。
 成実、何も聞くな。
 足が勝手に動き出した。