涌井は既に通話の切れた社用携帯を俺に見せた。

「女史、機嫌悪っ」

 今まさに切ったばかりなんだろう。
 なぜ俺に寄って来た?
 嫌な予感がする。

「なんだって?」

 女史とは、タレントとマネージャーの動向を統括・管理してるタレント部エリアマネージャー、佐藤さんの愛称。
 エリアマネージャーはタレント部とモデル部にそれぞれいるけど、タレント部の佐藤女史にダメ出しの垣根はない。

 モデルだろうとマネージャーだろうと、目について気になれば説教する。


「仕事終わったら、事務所に寄れだって」

「はっ、最悪」

 今日は予定では夕方早めに撮影が終了するはずだった。
 その後はオフだったのに。

 女史が不機嫌てことは、グッドニュースはありえない。
 説教コースに違いない。

「涌井、俺なんかした?」

「俺に聞くな。自分の胸に聞けよ」

「私も行こうかな」

 隣で聞いてた成実が、唐突に口を挟んできた。

「来なくていい」

「あら、そうですか」

その時ADが呼びに来て、収録は再開された。