親父はおもむろに身体の向きを変えると、腕を伸ばした。
 眠った葉山さんを抱え上げるために。
 俺もいつだかにやった、いわゆるお姫様抱っこ。

 少し驚いた。
 そんなに力があるとは思ってなかったし、こんな光景を目の当たりにするとは想像もしてなかった。

「酔ってるのに平気?」
「酔ってるから、運ぶんだろう」
「いやいや、親父が酔ってるからって意味」
「あぁ、」

 出入り口をふさいでた俺は、脇によけて進路を譲った。

「酔いは覚めたけど、明日は筋肉痛かもな」

 背中越しにそう答えた。


 …筋肉痛は2、3日後だ、若くないんだから。

 そう思ったけど、口には出さなかった。