そこでも見渡すと、目に止まったタクシー乗り場。
 ちょうど乗り込む葉山さんを見つけた。
 ただ、『乗り込む』っていうよりもあれは、スーツの男に『押し込まれた』って表現が正確だ。

「弥生、」

 迷わずに下の名前を呼んだ。
 自分もと、反対のドアからタクシーに乗り込もうとしてるスーツ男にも聞こえるように。

 男は俺を見てるけど無視した。
 タクシーの屋根に手をつくと葉山さんをのぞき込んだ。


 ねぇ、…………何で?

 ハァ…

 思わずため息が漏れた。
 何でこの人は時も場所も選ばずに眠るかね…

「起きろ、」

 酔ってピンク色に染まった頬を、指の背で軽く叩いた。

 ダメだ、完全に…顔がとろけてる。