コガレル ~恋する遺伝子~




「聞いても良いかな?」

 唐突に質問の予告をされた。
 何を聞かれるんだろう?
 やらかしてしまった失態を、いよいよ問いただされるのかとドキドキした。

「…はい」

「杉崎課長とお付き合いしてるの?」

 課長と?
 そうだ、私をかばって無能などと口走ってしまったからだ…


「杉崎課長は部下思いで、頼りがいのある上司でした。でも、それだけです、お付き合いはしてません」

「そう。違うなら良いんだ。
頼る相手がいるんだったら、ここに引き止めておくのは悪いと思ってね」

「いえ、こんな素敵なお宅に置いて頂いて感謝してます」

 専務が何故か私をじっと見た。
 私を見てるけど、私を突き抜けたその先に視点はあるように感じた。

「どんな所で育ったの?」

 どんな所と聞かれれば、田舎。
 お母さんと熊本の海の近い田舎で暮らしてた。

 父のことは知らない、私が生まれる前に亡くなったとは聞いてる。
 生死の真偽は分からないけど、私が認知されることがなかったのは事実。
 裕福ではないけど母子二人、それなりに幸せだった。

 当たり障りのない事柄だけを話した。

「そう」

 目の前の穏やかな専務の表情が、笑った時の圭さんの顔と重なった。

 …やっぱり親子なんだな。

「お食事、何か食べたいものありますか?」

 足りない物があればこの後、買い物に行こうと思った。

「今日はいいよ、休みなさい。
ここに来てから、ずっと休みがなかったろう」

 圭さんも准君も、出かけてしまったそうだ。
 夕食も二人だから出前でも取ろう、専務はそう言って読みかけの本に視線を戻した。