コガレル ~恋する遺伝子~



 見慣れた部屋で、見慣れたベッドのリネン。

 今、何時?
 サイドテーブルの時計を見ようとベッドに肘をついた。

「…痛い」

 恐ろしいほど機敏に動かない身体。
 頭がガンガンするし、気持ち悪い…
 なんとか置き時計を自分の元にたぐり寄せた。

 9時…20分。

 今日は…土曜日?
 そう、土曜日。

 和乃さんは?
 土日だから…来ない。

 私、どうやって帰ったっけ?

 分からない…
 一々自問自答して、現状を把握する。
 頭の中を揺すらないように、スローな動きで身体を起こした。

 自分を見れば昨日と同じ服のまま。
 向こうのライティングデスクの上には、バッグと花束が置いてあった。
 花束をもらったことは記憶にある。
 それから解散して、課長と電車の席に座った。
 
 ここまでだった。
 私の記憶はここまで。

 そっと立ち上がって、デスクまで歩いた。
 バッグからスマホを取り出してみると、通知ありのライトの点滅。
 圭さんからのラインと着信。
 
 私が返信したのは、
 ”今、電車です。もうすぐ帰ります" の一件だけ。
 その後のトークは全部未読無視…
 数度の着信も不在着信。

 …なんか嫌な予感がする。
 ううん、嫌な予感しかしなかった…