だって今日はやっと、やっとだよ。
こうして隣に並べて歩けて……
色んな話もできて。
手も繋げて。
これからまだまだ楽しくなる……そんな大事な時間なんだよ?
「ほら、教授さんも大事な話って言ってたんだし」
ぐい、と琉惟くんの背中を前に押す。
どうか……今の顔を見ないで欲しいの。
私きっと情けない顔してる。
琉惟くんにだけは見られたくないの。
だから早く……行ってしまって。
酷い我が儘を言ってしまうその前に……
「……分かった……」
琉惟くんは……歩いていく。
そしてゆっくり人の波に飲み込まれて……
見えなくなった。
どうしてなんだろ……。
なんと言うか……タイミングがね。
悪すぎるよ、本当……。
でも、我が儘は言わない。
それは自分の中での決め事。
絶対破りたくない、決め事。
「……っ、」
でも、でもね……
本当にたまに……破りそうになってしまう。
決めた事全て破ってでも。
理想の彼女像を壊してでも。
琉惟くんに我が儘言いたくなる。
子供なのかな……私……。
琉惟くんの夢も、もちろん応援したい。
だけど、だけどもう……
やっていけないよ……私。
そんな自信ない……。
琉惟くんと会う時はいつもお別れに怯えて……
会えるのなんて片手で収まるほど。
我慢出来ない私が子供なんだ……。
でも、もう……
もう……
「……っ辛いよ、琉惟くん……」
あなたが大好きだから……
会えない時間が辛い。
連絡も琉惟くんの迷惑や負担を考えたらとてもじゃないけど出来そうにない。
だから、ね……琉惟くん。
もう……バイバイしよっか……。
大好き……大好きだけど……。
会えないのならいっそ……もう手に届かない所へ行ってしまった方が……
楽なのかも知れない。
今日はこんなこと考えるはずじゃなかったのに……。
何ヵ月ぶりかの楽しいデートのはずだったのに。
まさか別れることを考えることになるなんて、ね……。
大丈夫だと思ってた。
会えない覚悟を決めていたつもりだった。
でもそんな脆い覚悟なんて現実を目の前にすれば何の意味も成さない。
人が溢れ返る街並みのどこか片隅から……
金木犀の切ない香りが鼻腔を甘く刺激する。
それは心をも切なく縛って、身動き出来ない私はただ、立ち尽くしていた……



