繭は春から新社会人。
進路を就職に決めていた。
「まぁ、無理には連れ出さないからさ!
気が向いたらいつでも連絡ちょーだいよっ」
「もちろんっ」
それから少し滞在していた繭はそろそろお暇するようでお見送り。
「じゃあまた連絡ちょうだいね!
お邪魔しましたーっ」
そう言って繭は楽しそうに駆けて行く。
曲がり角を曲がってその姿が見えなくなっても私はそこに立っていた。
外は眠気を連れてきそうな暖かさと春の切ない匂いが体を包み込むからまだこうしていたい誘惑に負けてしまう。
桜はそこら中で咲き誇り、花弁はキラキラと太陽の光を浴びて輝く。
3月の静かな春休みが終わったらまた慌ただしい新生活が始まる。
……恋愛は、まだまだ当分いいかも。
「んーっ。
気持ちいいなぁ」
思い切り伸びをすると心も少し軽くなった気がした。
「よしっ、ちょっと休憩しよーっと」
このまま散歩でもしてみようかな?
踏み出しかけた足は……意図せず止まった。
いや、もう頭で考えるより先に止まっていた。
「遥奈」
「……る、い……くん」
忘れない、忘れるはずのないあの人が……
目の前から歩いてきた。
少し痩せたように見える。
……元から細いのに……ちゃんと食べてなかったのかも……
そんな些細な変化もすぐに分かってしまうのは私は琉惟くんを忘れていない何よりの未練の証拠。
「久しぶり」
でも、その声はしっかり通っている。
しっかり、聞こえるんだ。
ちゃんと、ちゃんと……そこに琉惟くんがいる。
「……久し……ぶり、」
それなのに私の声は震える。
上手く声が出せないよ……。
「遥奈、痩せちゃってる……」
「そ、れは……琉惟くんの方だよ……」
「……うん、そうかも。
オレもね、ずっと考えてた……」
「……えっ、」
「あの日……遥奈がオレとのことを考えてくれたのと同じように……」
さっきまで心地よかったはずの春の日和は今は汗ばんでしまいそう。
ぎゅっと、ぎゅっと……手のひらを握りしめる。
何か……大切なものが零れ落ちてしまわないように。
「確かにあの時のオレは……忙しさを理由にして……
遥奈を独りぼっちにしてた」
「……そんな、こと……」



