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『あたし……先生の授業すごく好きです!
数学はずっと苦手意識あったんですけど……』
─────────…記憶の中にまで君のことは至るところに破片が散りばめられている。
初めて貰ったその言葉も、もちろん。
誰かのためになったんだ。
君からのその素直な言葉は宝物だった。
『絶対、先生になってくださいね!
きっとあたしみたいな沢山の人が先生を待ってると思います…────────』
でも、もう……
記憶の中の君は今日ここで終わってしまう。
「……自惚れてた、ってことか……」
ボソっと呟いた自分の声以外、聞こえてくるものは何もない。
当たり前だ。
1人きりなのだから。
どれだけ遥奈の後ろ姿を追い掛けようとしたか。
なに?って……振り返ってくれるあの表情が好きで愛しくて……
でも引き留められなかった。
遥奈のあんな真剣な目は初めて見たから……。
よっぽど悩ませてしまっていたことに気付いた時には遅すぎる。
「……遥奈……、」
彼女は、もうきっと戻って来ない。
それにまだ若い遥奈を自分の気持ちだけで縛り付けてはいけない。
最後に残った遥奈への配慮が躊躇いつつもその手を離してしまう理由になった。
“言葉にしなくても分かってくれている。
遥奈は何があっても変わらずにオレを好きでいてくれる”
いつか言った恭輔への言葉が蘇って心の痛む所へ鋭く刺さる。
そんなことは自惚れにしか過ぎなかったというのに……。
「……ごめん、な……」
違う。
こんな所で言う言葉じゃない。
ちゃんと……遥奈に伝えなきゃいけない。
分かっているのに……どうしてその足は前に進まない……?
遥奈はオレに沢山の大切なものをくれた。
そうなのに……オレは遥奈に何を返してあげられた……?
そう問い掛けてみても答えは見つからない。
いや、見つからないんじゃない。
何も返してあげられなかった。
それが、答え……。
こんなオレじゃ……遥奈に胸を張って真っ向から会えない。
自ら別れを切り出した遥奈のあの痛みを堪える顔が離れない。
このまま終わりにしてはだめだ。
でも、今の自分のままでは……戻れない。
だから……どうかオレに少しだけ時間をくれないだろうか……。
遥奈にちゃんと目を合わせて謝れるような男になるまでの……。
そして出来るなら……どうかオレに二度目の告白をするチャンスを…────────



