「すぐには王さまにならないの?」
 デニスたちによる獣狩りから数日後、赤ずきんとアレクシスはいつかと同じように、森にある池のほとりに並んで座っていました。
「慣例では〈成人の儀〉の成功とともに王位も譲られるが、今回は特別だったからな」
 晴れやかな口調でアレクシスは言います。
「まだまだ若輩者だということなのだろう。わたしもそのとおりだと思う」
「これからどうなるの?」
「しばらくは王太子の身分のまま、実質的な統治をしていくこととなるだろう」
 「格好いいね!」と赤ずきんが褒めると、アレクシスは困ったように笑いました。
「もちろん、一族のみんなの知恵を借りてだ…。一番は森の動物たちの信頼を失うようなことをしてはならないし…」
「面倒?」
「そうだな…。とても苦労があって、長い努力を必要とすることだ。だからこそ、手っ取り早い恐怖政治を選択し続けてきたのだろうな」
 それでもわたしは愛を知りたかった。
 ぽつりと呟くアレクシスの横顔を赤ずきんは見つめます。気弱ですが、とても綺麗な目をした若者を見つめます。
「…でもさ、王さまは、お父さんはアレクシスを最初から信頼していたんだと思うよ」
 猟師たちを制圧に向かったアレクシスに応援を許さなかった王の言葉を、赤ずきんは思い出しました。
「あなたなら一人でもやれるって信じてたんだよ」
「どうかな。…さすがに目の前でわたしが自決するところを見たくなかっただけじゃあないかな。多勢に無勢でわたしが倒れればそれはそれで…」
「なんでそういうことを言うかな!」
 どうにも後ろ向きのクセがある彼を赤ずきんは叱りつけます。そしてすぐに、ぷっと吹き出しました。
「狼さん…、もっと自分を好きになってあげて」
「赤ずきん」
「私、あなたのことが好きみたい」
 赤ずきんが愛くるしい顔で見上げてくるものですから、アレクシスはどきどきしてしまいます。
「…キスしてもいいか」
「最初は聞かなかったくせに」
 赤ずきんは笑います。
 そして、
「もちろんよ」
 そっと目を閉じたのでした。