ノラと呼ばれた男【弐】











(そう思ってたのにな、……錯覚起こして一華にすがり掛けたとかダッセェなぁ)


香水が引き起こすリアルな錯覚
まるで『あの日』が再度起こっているような恐怖と絶望と憎悪と罪悪感。

いつか、…………いつか親父は、

俺たちを殺す。と、核心じみた事を思っていたのに、

それでも一応『家族』で。どこかで信じたかったのかもしれない












『ごめんな。ごめん、………………山さんに会いに行こう、な?






一緒に死んでくれ時雨』






優しすぎる声とは裏腹に残酷な言葉

親父がアルコール依存症だと知ったのは、まだ先で。この時の俺は、ただただ『嗚呼、もう俺誰からも必要とされねぇのか』と、客観的に見ていた

親父が言う、『お前はクズだ。俺の子だからクズなんだ』と呪いのように言われ、殴られたあの日から分かっていたのに………………、












いつか、また、親父が改心する事を期待していたのかもしれない。



















「大丈夫、時雨……顔色悪いよ?」


不意に洋服の裾を引っ張られ、我に返れば、眉を八の字にした一華と視線が絡む

こいつって、前も思ったけど…………



(真っ直ぐに見てくんだよなぁ、)


思わずまじまじと、その瞳を覗けば小さな違和感に気付いた。

あれ…………こいつって………………、





「なぁ…………お前、コンタクトかなんか入れてんの」


そんな気がした。まぁ間違いなく勘だがな


「え?コンタクト?いや、私視力いいし」






と、ゆるりと首を振る一華。

「ふーん、じゃあ気のせいか……コンタクトかカラコンが入ってる気がしたんだわ」


「え、……カラコン、」