ノラと呼ばれた男【弐】










背後から聞こえる足音に警戒した。


コツ、コツ……と、人の気も知らないで、呑気なほどゆっくり響く足音。振り返らなくても分かってはいたが、












「田中、…………くん」


黒に近い、染めた茶色のボブ頭。
不自然なまでに長い前髪。
いつも俯き、吃りぎみな彼は、誰もがきっと『人見知り』『気が弱い』と思っているに違いない


いや、まぁ、……私も見事に騙された側なんだけどね、






「全員騙せたつもり、だった?」



「……」



「僕ね、観察が趣味なんだ、」








ふふ。っと、楽しく笑む口元。

いつもの態度と異なりすぎて、自然と眉が寄る。豹変し過ぎにも程がある、

今、目の前に立つ男が、あの田中だと誰が思うだろうか。変装すらしていなのに、ここまで人は雰囲気が変わるのか、





いや、違うか、

田中の素が『こっち』なだけだ



「あれ、あんまり驚かないんだね」



「……驚いてるよ、かなり」



「嘘だぁ、僕、嘘通せる自信なかったけどなぁ」








そう言って、肩を揺らしながらクスクスと笑う田中。実際、顔が隠れてるから本当に笑っているかは謎だが……、

クラスでのあれが演技って、役者志望かよ




全員、疑ってなかった筈だ、

もし、仮に気付けていたとするなら……





「はっきり聞くけど、君、









――――――――――姫川さんでしょ?」