背後から聞こえる足音に警戒した。
コツ、コツ……と、人の気も知らないで、呑気なほどゆっくり響く足音。振り返らなくても分かってはいたが、
「田中、…………くん」
黒に近い、染めた茶色のボブ頭。
不自然なまでに長い前髪。
いつも俯き、吃りぎみな彼は、誰もがきっと『人見知り』『気が弱い』と思っているに違いない
いや、まぁ、……私も見事に騙された側なんだけどね、
「全員騙せたつもり、だった?」
「……」
「僕ね、観察が趣味なんだ、」
ふふ。っと、楽しく笑む口元。
いつもの態度と異なりすぎて、自然と眉が寄る。豹変し過ぎにも程がある、
今、目の前に立つ男が、あの田中だと誰が思うだろうか。変装すらしていなのに、ここまで人は雰囲気が変わるのか、
いや、違うか、
田中の素が『こっち』なだけだ
「あれ、あんまり驚かないんだね」
「……驚いてるよ、かなり」
「嘘だぁ、僕、嘘通せる自信なかったけどなぁ」
そう言って、肩を揺らしながらクスクスと笑う田中。実際、顔が隠れてるから本当に笑っているかは謎だが……、
クラスでのあれが演技って、役者志望かよ
全員、疑ってなかった筈だ、
もし、仮に気付けていたとするなら……
「はっきり聞くけど、君、
――――――――――姫川さんでしょ?」


