【イチside】

『んじゃ、まぁ。若い者同士で後は楽しめよ』と、いかにも眠そうな顔で言い、去り際に『頑張れよ』と、自分にだけ聞こえる声で囁いた後、

先生はふらふらとした足取りで去って行った




(………………ありがと、竹松先生)


全く血の繋がりも、面識すらも無かったけど。『親戚』なんて嘘付かせてゴメンね、有り難う。

お陰で怪しまれずに皆の側に居れるよ、この『姿』で




「大丈夫か、竹松。めっさフラフラしてんじゃん」



「何言ってんの。さっきの時雨の顔色よりはマシじゃん?」



「ふふっ、さっき軽く死んでたもんね時雨は」








先生の後ろ姿を見送った時雨、藍、羽音が口を開く。そんな中、迅がふと自分に視線を移した。

真っ直ぐ過ぎる、その視線に、思わず息を飲む




「俺は迅、お前名前は?」

瞬間、時が止まった………………気がした。頭が真っ白になった、って表現が正しいのだろうが、

感覚からすればDVD の静止ボタンを押された気分で……………………、




(あ、………………しまった名前考えてなかった!!


え。名前!?そこ聞く!?いや、普通に聞くか、えっと、)




「いっ、…………イチ、って、言うんだぁ、宜しくね、迅、くん」



「へぇ、お前イチっつーの?犬みてぇ」








と、人の気も知らずに笑いとばす時雨


お前は相変わらず失礼な奴だな。と、普段なら言うが、仮にも『初対面』なわけで、苦笑して流すだけの対応となる。

一応、この『イチ』のキャラ設定は人見知りで。口数の少ない大人しい奴、なんだけど………………、



(何気、ペース乱されるんだよなぁ)


思わず静かに息を吐き、そっと辺りを見渡した。