病院のロビーに出たところで、反対側の廊下に見慣れた人がいるのを見かけた
「あれ……?」
その人は迷うことなく入院病棟に足を踏み入れる
だが、その彼の表情が私の足を立ち止まらせ、そして歩かせる
彼が入っていった方へ
どんどん奥へ進み、やがて慧が止まったのはある病室の前
「……入るで。」
中に入ったのを見計らって患者名を見る
「五十嵐 雅(ミヤビ)……。」
兄妹か何かだろうか
扉にそっと耳を傾け、中の様子を伺う
「調子はどうや?」
「お兄ちゃんがきてくれたから元気になったよ!!」
妹さんだったみたいだ
「そうか……。堪忍な、雅。
辛い思いばっかさせてもうて。」
「何でお兄ちゃんがあやまるの?
私はぜんぜん大丈夫だよ!!
お兄ちゃんもいるし!!」
「……ッ、すぐ……手術させたるから。
もうちょっとの辛抱や。」
「うん!!
そしたらお外でたくさんあそぼうね!!」
「おう!!
色んなとこ連れてってやるからな!!
じゃあお兄ちゃんそろそろ帰るわ。
またな。」
「うん!!」
病室から出てきてそっと壁に背を預けた慧は……泣いていた
「クソが……ッ。俺がしっかりせな……。」
そこに主治医であろう医師がやってきて
「五十嵐さん。」
「雅の手術、いつ出来るんすか……ッ。」
「……済まない。
手術は……出来なくなった。」
「な……んすか、それ……ッ!!
雅は手術せんと治らんのやろ!?
なら雅は……雅はどうなるんや!!」
医師に縋り付く慧と、申し訳なさそうにひたすら謝る医師
「済まない……上から圧力がかかったんだ……。
"返事を待っている"と。」
「……ッ」
廊下に1人佇む慧は……
「クッソが…………ッ!!」
誰にも聞こえないほど小さく……まるで、自分自身に言うかのように吐き捨てた


