鼻に抜ける風が潮風になって、海が見えた





「ここが最後だな。」



「シロ兄、ここまで連れてきてくれてありがとう。」



「可愛い妹のためだ。
さぁ、早く行ってこい。
きっと待ちわびてる。」



「うん。」





海は、あの日と同じだった



あの人と初めて来た日を、もう一度やり直しているみたいで



早く会いたくて、小走りになる



私の視界に映ったあの人に早く近寄りたくて



私に気づいてこっちを向いた彼の瞳が見開かれて、そして微笑んだ



いつも私に向けてくれる、私しか知らない彼の微笑んだ表情



両手を広げて待つ彼の胸にそのまま飛び込んだ



私を一瞬で彼の匂いと温かさに包まれた



私たちは何も言わず、ただ抱きしめあった



もう二度と離れないように



この温もりを手放さないように



背中に回された腕が震えているのに気づいて、もっと力を込めた



言葉にしなくても私の気持ちが伝わるように
どれだけそうしていただろう



耳元で大輝の声がした








「ふざけんなよ……。」



「……うん。」



「あの日、ここで約束したじゃねえか……。」



「うん。」



「一生離さねえって言った。
お前の背負ってるものを一緒に背負うと誓った。」



「うん。」



「なんでお前は、俺に約束を果たさせてくれねえんだよ……。」



「ごめんね。」



「お前があの日、俺の隣じゃなくて、前に立って言った"さよなら"がずっと頭で響いてくる。


俺は、自分で思っていたよりこんなにも弱かった。


お前がいなくなっただけでこんなにも腑抜けになっちまうんだよ。





だから……そばにいろ。」



「随分強引だね。」



「こうでもしなきゃその羽ですぐどっかに飛んでいっちまうだろ。」





全部知っていて、それでも私を包んでくれるこの温かさは、もう私のモノだ





「じゃあ、ちゃんと繋いでおいてね。」



「当たり前だ。」





そう言って私たちは、そっと唇を合わせた



離れていた時間の分を取り戻すかのように