ぶらほわバタフライ



私は大輝の背中に隠れているため拓斗からは見えない





「あぁ……そうか。
この学校にはREDMOONがいたんだっけな。」



「拓斗、本当は知ってて来たでしょ?」



「質問に答えろ。何しに来た。」





無意識だろうか、繋がれた手に力がこもっていた





「うっせぇな。
人を探しに来ただけだ。」





その言葉に違和感を覚えた



人探し……



さっき翔の弟が言っていた女の子



この間会った時は偶然通ったと言っていた



なら、この学校に拓斗の知り合いはいないはず……





「こんなところにお前の探している奴がいるのか?」





いや……いるじゃないか





「ここに通ってんだよ。
名前と顔しか知らねぇけどな。」





拓斗と私は、名前を教えあった



もし、私の予想が正しければ……





「なら、名前を言え。
見つけてやるからさっさと帰れ。」





お願い、言わないで……



拓斗が探してるのはきっと……私だから



大輝の背中から少し顔を出す



大輝を睨みつけていた拓斗が、ふと私に視線を向けた








そして……きっと気づいた









男装をしていても私がクロであることに



一瞬目を見開いたが、じっと私を見て……私の状況にも気づいてくれたんだと思う





「てめぇには関係ねぇよ。
"信じてたら、きっとまた会える"。」





その言葉の意味は、きっと私にしか伝わらない



初めて会った時から信じるという行為を信じていた人だから



私の名前は言わなかった



ここで名前を出してはいけないと、そう感じとってくれたんだろう





「おい、お前。」





そう言って拓斗が指さしたのは私で





「ぼ、僕……?」





慌ててクロハに成りすます





「そうだ。お前、名前は?」



「……クロハです。」



「……そうか。
藍羅、次に会った時はぶっ潰す。」



「じゃあまたね、兄さん。」





そう言って去っていった拓斗と翔の弟



2人がいなくなった後の空間は、静まり返っていた



弟が歩いていった方をただ見つめる翔



なんだろう……



その横顔が、少し寂しそうに見えた



今までの翔が一瞬崩れたような……そんな気がしたんだ





「翔……大丈夫?」



「あぁ、大丈夫だよ。
あまり昴とは会わないから、来てるとは思わなくて。」



「翔……、」



「それより、どうだった?
2人きりの学園祭は。」





そう言って笑った翔は、もういつもの翔だった



自然と話を変えられたけど……





「うん、楽しかった。」





でも、私に問い詰める勇気はなかった





「大輝、帰ってきてさっそくで悪いんだけど、接客お願い出来ないかな?
2人がいないと全然回らないって凜たちがボヤいてて。」



「あぁ。」





そこからは、最後まで働き続けた



ただただ、さっきのことを思い出しながら……