『……久しぶりだな、奏。』
「そうだね、殺。」
桐谷 奏
凜とクロが誘拐された時、クロの監視役をしていたやつ
クロの瞳を通して見た時はまだ曖昧だったが、今は思い出せる
『クロが捕まった時あそこにお前がいたのはどうしてだ?』
「だから、俺は頼まれただけ。」
『クロが捕まることもその依頼主のシナリオだったわけか。』
「いいや。
そもそも俺が頼まれたのは、クロの傍にいること。
だからあの時は慌てて仲間になりすました。」
傍にいる……?
その依頼主は、クロをどうしようとしている?
「最後に会った時はまだ不安定だったけど、今はもうすっかり人格が作られているんだね。」
『……不本意ながらな。』
「記憶、書き換えてくれたんだね。」
『違う……。別に俺が変えたんじゃない。』
クロは、苦しんで苦しんで苦しんだ先にも……また苦しみしかなかった
そんなクロの運命を、見てる俺が耐えられなかった
現実に絶望していたクロ
クロの苦しみを無くしたいと願った俺
その思いが交差して、クロは記憶をなくし俺は全てを受け入れた
ただ、それだけだ
「それでも、ありがとう。
依頼主を代表して、また俺の気持ちも含めてね。」
まさか
まさかその依頼主は……っ
「これ以上は言えない。
でも、あいつはまだ出る幕じゃないから。」
なんでだよ……
さっさと顔見せてやれよ……
そうすれば……もしかしたらクロの苦しみが減るかもしれないのに
「殺、忘れちゃダメだよ。
あの日にした約束。」
……っ、そうだ
記憶の片隅にある、最初で最後の約束
「俺たちは彼女のためだけに存在するGhostだからね。」
『……あぁ。』
「俺は情報屋だ。
どんな時だってあの子の見えないところにいる。
俺は、表に出れないあいつの代わりみたいなものだからさ。
それだけは……忘れないであげてね。」
奏は、最後にそう小さく呟いた
『……別に、俺1人で大丈夫だ。』
「頼もしいね、殺は。
でも、何あったら呼んでね。
殺、君は1人じゃないから。」
そう言うのを最後に、奏は夜の中に消えていった
その後をただ見つめる
言いようのない不安が這い上がってきて
それを"大丈夫"という言葉で押さえつける
俺まで不安になったらダメだ
いつかあの人が現れるその日まで、俺はクロを見守り続ける
その日がきっと、俺の最後の日だ
『……お前は、1人で輝き続けて疲れないか?
寂しく……ないのか?』
決して返ってくるはずのない答えを月に問いながら
この胸の痛みは……俺のなんだろうか


