月が夜を照らす



決して誰にも届くことのない、
それでいて1人で輝くことの出来る月を、
俺は掴もうと無様に手を伸ばす





『……届くわけないのにな。』





今日はなぜか落ち着かなくて



それはきっと俺じゃなく、俺の中にいるクロの方で



この深い愛情をクロが持つことを、俺はとても嬉しかった



俺にも伝わるその感情が、俺には心地よくて



でも……





『やっぱ迷ってんだよな……クロ。』





クロの知らないところで記憶は蘇りつつある



だからクロはそれを感じ取っている



自分の周りで危険なことが起こると



そんな不確定要素がクロを迷わせる



ごめんな、クロ



そればっかりは俺にはどうしようもない



だって俺は、あくまで影だから



人格を持っても、俺はクロの中でしか生きられないから



偽物に本物をどうにかすることなんて出来ないだろう?



だから俺は、クロが傷つかないように盾になるだけだ



全てを知っている俺には、クロの記憶が目を覚ますまでしか時間がない



それまでに俺がしてやれることをやる





『影として存在することが苦しくなったのは、いつからだろうな……。』





そんなの分かりきっている



だって俺はクロであり殺だから



きっとあいつらと出会って共に過ごしたからだ





『だから俺には優しくすんなって言ったのに……。』









「だったら、全てを捨てればいいのに。」










俺の背後から聞こえたその声に、別に驚きはしない





『お前か。
クロのことずっと監視していたのは。』





振り向くと、そこに佇んでいたのは困ったように苦笑する男



その男を見た瞬間、胸の奥が騒いだ



それもそのはずだ



俺たちが会うのは……これで2度目だ





「それは人聞き悪いなぁ。
俺は頼まれているからそうしてるだけなのに。」





あの日の光景が頭をちらつく



そうか……



まだ俺も完全に記憶はないが



あの日、最後に会話したのは……俺の方だったか