「少し付き合え。」





神矢組を出て、大輝がそう言って足を運んだのは海



もう夏休みも終わったからか、あまり人はいなくて



だからこそ、誰にも邪魔されない海の景色は……とても美しかった





「なんで、ここに……?」



「……クロ。お前は、何を考えているんだ?」





なにって……たくさんあって分からないよ



大輝たちのことも



私自身のことも



シロ兄のことも





「お前を傷つけたのは、俺だろう?」





そう言って私を見る大輝の瞳に息を飲んだ



違う





「屋上を飛び出したお前を見て、俺には訳が分からなかった。
でも、お前を傷つけたのだけは分かった。」





違う……違うの……





「なぁクロ。
俺は、あまり人の心が分からねぇ。
だから……言ってくれねぇと分かんねぇんだよ……。」





何で大輝がそんな顔するの



私が勝手に落ち込んだだけなのに





「たった1日しか経ってねぇのに、お前が隣にいねぇと落ち着かねぇ。
こうやって痺れを切らして会いに来る始末だ。
なぁ、俺は……どうしちまったんだろうな……。
初めて会ったあの日からずっと……俺の中にお前が居座るんだよ。」





その言葉に、胸が高鳴って



そっと大輝の指が触れた頬から、じわりと熱が広がる



なに、これ……





「私、は……」





言っても、いいんだろうか



また迷惑をかけてしまわないだろうか





「クロ。お前は俺にどうしてほしい?」



「私……みんなの重荷になってるって思った。
姫の立場の私が好き勝手やって、みんなを心配させて巻き込んで。
みんなの迷惑になってると思ったの。
だから……学園祭で男装をするのも、今までのことがあるから面倒事が起きないように大人しくしてろって言われてるんだと思って……。」





自分で言ってて泣きそうになった



本当に弱い……情けない



下を向くと砂浜が目に入って



私も……砂みたいに波に流れていっちゃえばいいのに……



そう思っていると、不意に影が落ちて……抱きしめられた



力強くて、逞しくて……それでいてあったかい



頭に回された手で、顔を上げられなくて





「……っ、本当にバカだろお前。」



「なっ、」



「お前を俺たちの姫にしたのは、俺たちがお前と一緒にいたいと思ったからだ。

お前が好き勝手やって、俺たちを心配させんのなんかとっくに分かってる。

しかも、お前はそんな無茶苦茶やって凜や慧を救ってくれた。

俺たちはそんなお前に何度も助けられた。

お前が心配することなんか何もねぇんだよ。

それに……。」