消極的に一直線。【完】

 ◆◇◆◇


 家に帰ってから、お母さんと一緒になべの材料を切っているときも、仕事から帰ってきたお父さんと三人でなべを食べているときも、ずっと、落ち着かない。


 明日、倖子ちゃんに会える。そして、颯見くんにも、会える。

 なんだかじっとしていられなくて、食べ終わるとすぐに食器を洗い始めた。


「少し休んでからでいいのに」


 お母さんはそういいながら、私の隣に並んで、お椀についた洗剤を洗い流していく。


「お母さん、明日、友達と出掛けることになったの」


 そういうと、お母さんは一瞬、洗い流す手を止めた。

 そしてすぐに、よかったじゃない、と笑って、再び手を動かし始める。


「あ、でも、雫。この前の打ち上げみたいな服装じゃなくて、もう少しちゃんとした格好しなさい」


 お母さんはそう言って、ふふっと笑った。


 服装かぁ。体育祭の打ち上げの時の、みんなの格好を思い出した。

 ワンピースとか、スカートとか、レースのついたブラウスとか、綺麗な色のヒールの靴とか。みんな、すごくかわいかったなぁ。


 私も、もしそういう格好をしたら、少しかわいくなれるのかな。

 ふっと颯見くんの顔が浮かんで、かわいくなりたいなぁ、なんて、思った。


 だけど、どうしたらいいんだろう。

 オシャレとか、そういうセンスの全くない私は、右も左もわからない。


「お母さん、どんな服を着たらいいと思う?」


 隣でせっせと鍋を擦っているお母さんに、訊いてみた。

 お母さんは、またその手を一瞬止めて、え、と声を漏らす。


「んー、お母さんは若い子のファッションとかわからないし……。友達に訊いてみた方がいいんじゃないかしら」


 そう言って、電話の方へ視線を向けるお母さん。

 そっかぁ、と一瞬納得したものの、私の電話番号は教えたけど倖子ちゃんの電話番号は知らないという事実に気づく。


 また失敗しちゃったなぁ。私も訊いておけばよかったなぁ。

 後悔していた、ちょうどその時。

 まるでタイミングを見計らっていたかのように、電話が鳴りだした。