ポケットに入れてある財布を取り出して、百円玉を自動販売機の穴に入れる。



急に電源が入ったみたいに、たくさん提示されて並んでいる紙パックの下のボタンが赤く光った。



そこまでして、どれにしようかと、手が空中を舞う。



勢いで、厚かましくも、待っていてほしいなんて言って来てしまったけど、颯見くんの好みなんて何も知らなくて、選べない。



颯見くんに何が好きか訊いてみようかと、颯見くんのいる体育館入口の方に振り返ってみた。



だけど、颯見くんは、もう友達に囲まれていて、ぎこちない笑いを浮かべながら、それでもその場で待ってくれている。



早く、しなくちゃ。



もう一度、自動販売機に視線を戻して、少し緊張した息を吐く。



上から順番に、提示された紙パックを目に映していく。



炭酸レモン、大人のブラック、ピーチミルク、炭酸オレンジ……。そこまで見て、ふと、次のパッケージが目に付いた。



“春風の紅茶”



無意識に手を延ばして、その下のボタンを押した。



カコンと、商品が落ちた音を聞いて、それを手に取る。



春風の紅茶。

颯見くんにぴったり。



そう思って、体育館入口の方に向き直ると、そこにはもう、さっきまで颯見くんを囲んでいた友達はいなくて、颯見くんだけが私を見据えていた。