倖子ちゃんたちと仲良くなってクレープを食べた日から、ムカデ競争の歩数はどんどん延びていった。



倒れずに走れるだけじゃなく、スピードも速くなった。



それに比例するかのように、私も倖子ちゃんたちと少しずつ自然に話せるようになった。



昼休みの、少ない食事時間も、私は一人じゃなくなって、ムカデ競争のメンバーで一緒に食べたり、倖子ちゃんと二人で食べたりした。



一週間もすると、放課後の練習は大縄に入るように言われて、大西さんは「ずっとムカデ競争の練習でよかったのに」なんて言いながら大縄の練習をしていた。



何もかもがキラキラ輝いていて、すごく楽しい。



そんな毎日が過ぎていって、とうとう体育祭の前日になった。



教室の黒板一面に大きく書かれた『十二組絶対優勝』という文字。



「今から全校集会だから、廊下に並びなさい」



派部先生の淡々とした号令で、教室の椅子が一斉にガラっと音をたてる。



立ち上がり廊下に並ぶと、息だけの話し声がこだましていた。



「とうとう明日だよなー」


「今日の放課後も練習できると思ってたのに、全校集会だったなんてな」



息の声だけが賑やかに響いている廊下で、派部先生が厳格な顔つきで前に立つ。



「列を乱さないように、静かに行きなさい」



先頭の人が動き出して、それに続いて私も足を進める。



体育館校舎へと続く渡り廊下を通りながら、ふと中庭に目をやると、ちょうど同じように並んで体育館へと向かう颯見くんの姿が見えた。



クレープ屋で会った以降、ずっと顔を見ていなかったからか、ポッと胸が鳴る。



颯見くんには、たくさんお礼を言いたい。



倖子ちゃんたちには、クレープ屋の翌日に、ちゃんとお礼のお菓子をあげることができたけど、颯見くんには何もできてない。



休み時間も昼休みも放課後も、それぞれのクラスで練習があって、お礼する時間がなかった。



ずっとずっと、そのことが心につっかえている。



「哀咲」



ふと、すぐ隣から名前を呼ばれて、視線を向けると、派部先生が少し眉をハの字にして屈んだ。



「気分が悪くなったら、貧血で倒れる前に、先生に言いなさい」



少し小声気味に言った先生に頷いて、もう一度、視線を中庭に向けてみたけど、もうそこに颯見くんの姿はなかった。