「それ、飲むの?」

 
 颯見くんの優しい声が降ってきて、また胸の奥が音をたてた。

 私が首を横に振ると、颯見くんは、飲まないんだ、と言って笑う。


「あ、あの、」


 声を出すと、颯見くんは柔らかい表情で私を見た。


「この前、泣いてしまったときは、あの、ありがとう」


 そう言って、恐る恐る、手に持った『春風の紅茶』を前に差し出す。


「颯見くんの、おかげで、倖子ちゃんたちと、仲良くなれました」


 颯見くんは少し驚いた表情で、『春風の紅茶』を受け取ってくれた。


「これ、俺にくれるの?」


 戸惑ったように、『春風の紅茶』を見つめている。

 やっぱり少し、厚かましかったかもしれない。迷惑だったかもしれない。こんなものいきなりもらって、困ってるかもしれない。


 いらなかったら捨ててもらおう。

 そう思って、それを言葉にしようと息を吸うと、颯見くんがパッと私に視線を上げた。


「すげー嬉しい」


 綺麗な満面の笑顔を向けて、そう言った。

 爽やかな春風が通り抜ける。


 また、この感覚。ポッと胸の奥が熱くなって、心臓が大きく揺れる。


「けど、哀咲が寺泉たちと仲良くなれたのは、哀咲が頑張ったからだよ」


 颯見くんは、本当にすごい人。


「頑張ったな、哀咲」


 本当に、春風みたいな人だ。


 そわそわとしたものを運んで、温かく、爽やかで、私の胸をくすぐる。


「明日は体育祭、頑張ろうな」


 大きく頷くと、颯見くんはくしゃりと笑って、それじゃあ、と先に教室に帰って行った。