第3章 紅茶と苺ミルク



 倖子ちゃんたちと仲良くなってクレープを食べた日から、ムカデ競争の歩数はどんどん延びていった。

 倒れずに走れるだけじゃなく、スピードも速くなった。


 それに比例するかのように、私も倖子ちゃんたちと少しずつ自然に話せるようになった。

 昼休みの、少ない食事時間も、私は一人じゃなくなって、ムカデ競争のメンバーで一緒に食べたり、倖子ちゃんと二人で食べたりした。


 一週間もすると、放課後の練習は大縄に入るように言われて、大西さんは「ずっとムカデ競争の練習でよかったのに」なんて言いながら大縄の練習をしていた。

 何もかもがキラキラ輝いていて、すごく楽しい。

 
 そんな毎日が過ぎていって、とうとう体育祭の前日になった。

 教室の黒板一面に大きく書かれた『十二組絶対優勝』という文字。


「今から全校集会だから、廊下に並びなさい」


 派部先生の淡々とした号令で、教室の椅子が一斉にガラっと音をたてる。

 立ち上がり廊下に並ぶと、息だけの話し声がこだましていた。


「とうとう明日だよなー」
「今日の放課後も練習できると思ってたのに、全校集会だったなんてな」


 息の声だけが賑やかに響いている廊下で、派部先生が厳格な顔つきで前に立つ。


「列を乱さないように、静かに行きなさい」


 先頭の人が動き出して、それに続いて私も足を進める。

 体育館校舎へと続く渡り廊下を通りながら、ふと中庭に目をやった。


 同じ制服を着た生徒たちが並んで体育館の方へ歩いている。自然とその中に颯見くんの姿を探して目が動いていた。

 クレープ屋で会った以降、ずっと顔を見ていない。

 
 颯見くんには、たくさんお礼を言いたい。

 倖子ちゃんたちには、クレープ屋の翌日に、ちゃんとお礼のお菓子をあげることができたけど、颯見くんには何もできてない。


 休み時間も昼休みも放課後も、それぞれのクラスで練習があって、お礼する時間がなかった。

 ずっとずっと、そのことが心につっかえている。

 だけどこの人数の中では彼の姿を見つけることはできなかった。