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「じゃあ、行こう! クレープ屋!」


 鞄を肩に担いだ大西さんが、ムカデ競争のメンバーしか残っていない教室で声を張り上げた。


「あそこのクレープ屋、学校近くだし、安いし、テーブルも椅子もあるし、何より美味しいし、最高だよね!」


 佐藤さんが嬉しそうに言って、鞄を持った。


「五人で行ったら確か五十円引きしてくれるはず」


 そう言い、笹野さんは机の中のノートを鞄に詰めていく。


「あたし実はあのクレープ屋、行ったことないんだよね」


 倖子ちゃんが軽そうな鞄を振り回しながら言うと、他の三人がえーっと驚いた。


 友達と学校帰りにクレープ屋なんて、今までの私には絶対になかった。

 私はそんなクレープ屋の存在すら知らなくて、妄想でも思い描いたことはなかった。


 そんなことをこれから体験できるかもしれない。そんな奇跡のような状況にいる。


 なのに、私は肝心なことを思い出した。財布には公衆電話代の十円玉五枚しかない。


「あ、あ、あの……」


 絞り出した小さな声。

 それでも、倖子ちゃんたちは、私に耳を向けてくれた。

 少し緊張で手が震えながら、口を開く。


「わ、私、財布に、五十円しかないから……い、行けないです」


 言い終わった後で、ちゃんと言い方合ってたかなとか、せっかく提案してくれたのを断って嫌な気分にさせちゃったかな、とか、不安がどんどん膨らんでいく。