教室のドアをガラガラっと開けると、何人かのクラスメートがちらっとこちらを見た。

 でも、私の姿を確認すると、なぁんだというような態度で、また仲間と話し始める。

 いつものことだけど、やっぱり少し傷ついてしまう。


 別にいじめられているわけでもない。無視されてるわけでもない。

 だけど、上手く馴染めない。


 教室の窓際の一番後ろの席に座り、クラスを一通り眺めてみた。

 みんな誰かと楽しそうに話していて、教室はいつもより少しだけ賑やか。


 夏休みにあったことや、二学期からのことを話してるのかな。恋の話や噂話なんかもしてるのかな。楽しそうだなぁ……。

 いつかはあの中に私も――。


 そんな妄想をしながら、賑やかなクラスメートたちを眺めていると、チャイムが鳴って担任の先生が入ってきた。

 賑やかな話し声が、ガタガタと慌ただしく座る音に変わる。


 担任の派部(はべ)先生は、少しだけ教壇で話をした後、廊下に整列するよう号令を出した。

 今日は二学期の始業式だ。



 ◆◇◆◇



「えー皆さん、夏休みは有意義に過ごせましたか?」


 体育館の舞台上で、校長先生が語りかけるように話している。


 校長先生の話は、高校生の友情や青春の話が多い。

 立ったまま聞かなくちゃいけないのは少ししんどいけれど、私はいつも「そんな風になれたらいいな」って妄想しながら聞いている。


「二学期というのは、そんなクラスの仲間と励ましあって――」


 だけど、今日はなんだか、校長先生の声がモワモワとエコーがかったように鼓膜に響く。

 熱のこもった体育館の熱気と湿度のせいなのか、校長先生の声が聞き取りづらい。


 ――いや違う、おかしい。

 視界までもが色を失っていく。気分が悪い。滲み出た冷や汗がじわりと背中を伝っていく。


 こんな状況は初めてじゃなかった。何度か経験したことがある。貧血だ。


 早く、先生に言わないと。こんな場所で倒れてしまったら、みんなに迷惑をかけてしまう。

 そう思うのに、先生に言いに行こうと思うと、緊張して勇気が出ない。

 どうしよう。どうしよう……。


「哀咲さん……?」


 異変に気付いたらしい後ろの男子が私の名前を呼んだのを最後に聞いて。

 視界が光を失った。