不思議。こんなの、想像してなかった。

 ――ううん、本当は、すごくずっと前から、何度も何度も妄想していた。


「そういえば、寺泉って哀咲さんと前から仲良かったっけ? 雫って呼んでるし」


「ああ、昨日、友達になったから」


「昨日? へぇ、いつの間に!」


「まぁあたしらも今日から友達だしね」


「哀咲さんのこと、ほんと誤解してたわ」


「喋るの緊張して苦手なんだって」


「そうだったんだー!」


 私以外の会話が、綺麗に流れていく。

 だけど、その輪には私も入っていて。今までと全然違う。


「でも、ムカデ競争の掛け声は、声出してたよね」


「あ、確かに。いち、に、って後ろから聞こえてた」


「頑張って出してたんだね」


 違う、私はあのとき頑張っていなかった。そういう、事務的なことは、すんなりと声が出る。例えば、授業で当てられて、問題の答えを答えるとか。

 だから余計に、大西さんたちは、私が関わりたくないから喋らないのだと思ってしまったのかもしれない。


「あ、そうだ、」


 倖子ちゃんが、会話の途中で私の方を向いた。


「敬語は禁止だからね。友達は敬語で話したりしないから」


 ずっとずっと憧れてきた、“友達”。クラスメートの友達。何度も妄想した、こんな関係。

 胸が高鳴る。


 ふわっと、颯見くんの顔が脳裏に浮かんだ。

 その瞬間、胸の奥がくすぐられる。


 颯見くんがいなかったら、私は何も頑張れなかった。全部、颯見くんのおかげだ。


「いい? わかった? 敬語禁止!」


 嬉しくて、嬉しくて。大きく頷いた。


「よし! 練習頑張ろう」


 涙を拭い切った大西さんの晴れやかな掛け声で、再び練習が始まった。