「言いがかり……ごめんなさい」


 それは、想定外の言葉で、私はハッと視線を地面から大西さんの顔へ移した。

 大西さんの顔は、なんだか泣き出してしまいそうで、瞳も少し潤んでいるような気がした。


「昨日帰る前に、言われたの。哀咲さんはあたしらと仲良くなりたいと思ってるって。哀咲さん泣いてたって……」


 その言葉に、驚いた。

 泣いていたのを知ってるのは、一人だけしかいない。


「ごめんね、今日謝りたかったけどタイミング逃してて……」


 そう言って、一歩、私の方に近づく。


「本当に、ごめん!」


 大西さんが勢いよく頭を下げた。


「あ、あたしも哀咲さんのこと勘違いしてた。ごめん!」
「あたしも……」


 笹野さんと佐藤さんが続いて頭をさげる。

 こんな反応が返ってくるなんて思ってなかったから、思考が追いつかなくて何も返せない。


「酷いこと言ったのに……仲良くなりたいって言ってくれるなんて……」


 顔を上げた大西さんの潤んだ瞳から、涙が溢れそうになっていた。


「あたし……ほんと……ごめんっ……」


 また謝られて、必死に首を振る。

 違う。私が喋ろうとしなかったから。逃げてばかりで頑張らなかったから。

 勘違いされるのは当然だった。


「あんなこと言っちゃったけど……私の方こそ……仲良くしてくれる?」


 大西さんの震えた声に、鼓動が高鳴った。

 奇跡のようなことが起こった。夢みたい。


「哀咲さん、あたしも仲良くしたい……」
「あたしも……!」


 笹野さんと佐藤さんがもう一度頭を下げる。

 そんな言葉、勿体無くて。何度も何度も、大きく頷いた。


「ありがとうっ……」
「嬉しい……ありがとう」
「ほんとにありがとう」


 三人から口々に何度もお礼を言われて、首を振る。


「はいはいもう泣き止みなよ、練習できないじゃん」


 倖子ちゃんがそう言ってティッシュを差し出した。
 

「うん……ごめん。ありがとう……」


 大西さんがティッシュを一枚抜いて涙を拭きとる。


「新作のウォータープルーフメイクで良かった…」


 大西さんのそんな一言にみんなが笑う。何となくその空気が心地よくて私も笑った。