「哀咲、さん、」


 止まっていた空気を動かしたのは、大西さんの声だった。


 わかっていても、反応を返されるのが怖くて、身体がこわばってしまう。

 大西さんの顔を見る勇気がなくて、視線を冷たい地面に向けた。


 次の言葉までの時間がひどく長く感じる。

 出されるであろう拒否の言葉を、私はどうやって受け止めたらいいんだろう。

 どんなに胸を押さえても、鼓動は耳にうるさく響いてくる。


 ここから逃げ出したい。そう思うのに、身体は動こうとしてくれない。

 それに、逃げてはいけないんだ。


 嫌なほどに聴覚が研ぎ澄まされていて、みんなの息遣いがよく聞こえる。

 大西さんが小さくふーっと息を吐いたのが分かった。