「いくよー! せーの!」



いーち、にーい、と声を合わせて、回ってくる縄の上を跳ぶ。




蝉が鳴くのをやめた九月の中旬。



体育大会の季節。



放課後のグラウンドには、各クラスの大縄練習の掛け声が空高く響いていた。





「惜っしー! あと三回跳べたら百回いってたのにー」


「うーわ悔しいー。けどもう足上がんねー」



九十七の掛け声の直後に誰かに引っかかって止まってしまった縄。



普段あまり運動しない私には、肺も足も限界を超えていて、みんなの呼吸に混じって息を吐く。



「今日の練習はここまでっつーことで!」



体育委員の吉田くんが右手を挙げながら叫んだ。



途端に、整列された列が乱れてみんなが思い思いに散っていく。



「哀咲さーん、疲れたねー」

「倒れそうになる前に言うんだよー?」

「あと三回、悔しかったねー」



思い思いに、声をかけてくれて、思い思いに、手を振ってくれて。



頷きながら手を振り返して、去年の今頃のことを思い出した。



初めは上手くいかなくて険悪な空気だったムカデ競争。



ずっしりと重くなった心も、呼吸の苦しさも、あの時は確かに感じていたのに。

もうそんなこと思い出せないぐらい、その後に嬉しい以上の気持ちを経験した。



颯見くんに背中を押されて、初めて伝えた思い。



――友達になりたい



初めて出来たクラスの友達。



下の名前で呼んだり、クレープ屋に行ったり、ムカデ競争の練習すらも楽しくて。



全部、初めての経験で、初めての感情だった。



もう、あれから一年が経ったんだ。



速いなぁ。