自転車が、私と颯見くんの横をスーッと通り過ぎる。



私が何を言ったかなんて知らない蝉が、ミーンミーンと、変わらず鳴いている。



薄暗いオレンジに照らされた颯見くんの整った顔が、幻想的に映った。



「哀咲ごめん、」



そう言って、颯見くんが私の方にゆっくり足を進めて空いた距離を縮める。



少しだけ、その整った顔が赤く染まって見えるのは、夕陽のせいなのかもしれない。








「……かわいい」




呟くように言った颯見くんの声。


次の瞬間、ガバっと腕を背中に回された。



颯見くんの熱い体温に抱きしめられる。



あれ、今、かわいいって言われた気がした。



それに、こんなに密着するのは花火合戦の日以来で、脈がおかしいぐらいに騒ぎ出す。



何なんだろう。


これは、何なんだろう。




「俺の方が、哀咲のこと大切にしたいって思ってるから」



耳元で響いた颯見くんの吐息混じりの声が、心臓をドクンと揺らす。



「負けねーよ」



目眩がするような、甘く優しい声が、私の胸の奥を溶かしていった。




《優しい負けず嫌い Fin》