「ん、どうした?」



颯見くんが立ち止まって振り返る。



颯見くんはいつも遠回りになるのに私を家まで送ってくれる。



だけど、今日はこんな遅くまで待たせてしまったから。



「あの、今日は、私が、送りたい」



そう言うと、颯見くんは一瞬目を見開いてから、優しく笑った。



「気にしないで。俺が送りたいだけだから」



優しくて、甘く溶かされるような、声。



心臓が、奥の方で揺れる。



「あ、の、でも」


「哀咲女の子なんだから、守らせて」



優しい、優しい、颯見くんの笑顔。



好きだなぁ、って、春風が吹く。



オレンジ色だった空は、だんだんと光度を落として、伸びた影が少し薄くなっていた。



「あ、の、やっぱり、送りたい」



寝ていたのを起こさず待ってくれていた。

私のせいでこんな時間になってしまった。



「颯見くんのこと、大切に、したい、から」



ぽつぽつと落とした自分の声が、妙に響いた気がした。