チラリと窓の外を眺めると、すぐに目に映った颯見くんのユニフォーム姿。



トクン、と心臓が高鳴った。



ボールを蹴りながら走る真剣な顔。


パスを回して誰かがシュートして、走りながらハイタッチ。


楽しそうに笑う顔も、腕で汗を拭う仕草も。



目が、離せない。



こうやって見ていると、片想いの時と何も変わらなくて、あの颯見くんが私の彼氏だなんて、ただの妄想なんじゃないかと思えてくる。



颯見くんは、私がこんな風に教材室から颯見くんの姿を眺めてること、胸を高鳴らせていること、知らないんだろうなぁ。



熱い息を吐いて、張り付いていた視線を無理やり課題に戻した。



机の上に広げた数学の問題集は、課題に出された範囲がもうすぐ終わる。



だけど、颯見くんで満たされた頭は、なかなか問題に集中してくれない。



ノートの上でシャーペンを握ったまま、時計の秒針の音を聞く。



少しだけ開いている窓から爽やかな風が吹いて、蒸し暑い空気を拭い去った。




――あ! 起きたんだ!


――俺、一年の数少なき男子保健委員だからさ、連れてきたんだけど、


――あー、まじで、目さめてよかったぁ……



去年の九月。
春風が、吹いたと思った。



優しくて、暖かくて、少し、胸の奥が疼くような、そんな。



そのまま大きく膨らんで強くなった気持ちが、颯見くんにも通じて、颯見くんも同じ気持ちを持ってくれた。



本当にこれは現実なのかなって思うぐらい、奇跡みたいなこと。



大切にしたい。颯見くんのこと。