消極的に一直線。【完】

 そうだ――。私は。大西さんたちに、何かを一生懸命に頑張るなんてこと、全くしていなかった。

 話したいと、輪の中に入りたいと思う一方で、どこか、話す機会のないように、関わる機会のないようにと逃げていた。


 今も、ずっと――。


 佐藤さんに謝らないとと思いながら、三人でいるから今はやめておこうだなんて、ずっと先延ばしにしているのも。

 保健室に寺泉さんの絆創膏を取りに行こうと思った時、わざわざ佐藤さん達がいなくなった頃合いをみて、時間をおいてから行ったのも。

 絆創膏を渡そうとした時教室にいなかった寺泉さんにホッとしたのも。


 全部、逃げていたんだ。頑張るどころか、逃げていた。

 何も頑張らないまま、仲良くなりたいなんて、そんな都合のいい話があるわけない。


 私、間違ってた。何も頑張ってなかった。


「あの、」


 ザワザワと木の葉の擦れる音が聞こえる。

 ぎゅっと握りしめた拳に力を入れた。


「私っ……頑張る。伝えてくる」


 颯見くんはすごい。颯見くんが気づかせてくれた。

 私、頑張ればいいんだ。


 くるりと方向転換して、勢いよく足を踏み出した。


 今。今、伝えよう。大西さんたちに、伝えるんだ。


 
「哀咲!」


 背中の向こうからまた名前を呼ばれて、走り出していた足を止め、振り返った。


「俺は味方だから」


 くしゃりと笑った、その顔。いつもの、春風。

 やっぱり、颯見くんはすごい人だ。
 

 大きく頷いて、前に向き直った。駆け出す足が、さっきより軽い。