波音がまた、ザザーン、と砂浜を打つ。



耳の奥で響く鼓動の音が、少し心地いい。



目の前に立つ颯見くんが、「あのさ、」と言って片手を自分の髪に当てた。



この距離だとよく見える颯見くんの表情が、それによって半分隠れる。



下唇を軽く噛んで、逸らしていた視線が私に向けられた後、髪に当てていた手が離れた。



「哀咲、」



繋がった視線で名前を呼ばれて、緊張が走る。



気のせいかもしれないけど、颯見くんも少し緊張しているような、そんな気がした。



脈が、ずっと全身を打ち付けて、鳴り止まない。








「俺と、付き合ってください」





颯見くんの形のいい口から出た言葉が、真っ直ぐ耳に届いて体の奥で溶けた。





少し火照った体を、生暖かな風がかすめていく。



胸の奥でじんじんと何かが音を立てている。



これは本当に現実なのかな。
夢なんじゃないのかな。



まだ信じられない心の中で、颯見くんの言葉を必死に反芻する。



目の前にいる颯見くんの吐息が、近い。


目眩がしそう。



もう、夢でも現実でも、どっちでもいいと思った。






「よろしく、お願い、します」



答えると、一瞬の沈黙。



「……やべー」


呟くような声が落ちて来たと思ったら、グイッと腕を引かれて、トス、と顔が颯見くんの体に当たった。



そのまま腕を離れた手が、背中に回る。



熱い温度が、脈を伝って流れてくる。



激しく打ち付ける鼓動の音に支配された聴覚。



呼吸をしていいのかも、わからなくなる。



もう、この激しい鼓動の音が、私のものなのか、颯見くんのものなのか、わからない。



「やっとだ……」



切なく掠れた声が耳元で響いた。



それが、たまらなく心臓をくすぐって。


少し震える指で颯見くんのシャツを掴んだ。