「哀咲」



颯見くんの声が聞こえて、ザ、ザ、と足音が近付いた。



砂を踏む音が近づくたびに、鼓動が揺れる。



颯見くんの足が、私のすぐ前で止まった。



「今は、俺のこと見て」



降ってきた声が、少しだけ切なく掠れて聞こえて、そっと顔を上げた。



思ったよりも颯見くんとの距離が近くて、心臓が跳ねる。



「顔、よく見たい」



そう言った颯見くんの指が、スッと頬に触れて、心臓が急ピッチで暴れ出した。



触れられた顔に、熱が集まってくる。



息を吐き出せなくなって、苦しくなってくる。



超高速で脈を打つ心臓が、体から飛び出てしまいそう。



「怖がらないで」



颯見くんが、優しく言って、そっと頬から指を離した。



まだドクドクと耳の奥で脈が暴れてる。



怖いんじゃない。

ただ、緊張するだけ。



「颯見くんの、こと、怖いと思ったこと、ないよ」



伝えたくて必死に絞り出した声は、打ち付ける鼓動のせいで少し震えて聞こえた。



だけど、颯見くんは、「そっか」と優しく笑う。