消極的に一直線。【完】

「哀……咲…………?」


 ハッと、よどんだ視界に映ったその人物に目を凝らした。


「哀咲……泣いてる?」


 優しくて、少し動揺を含んだ、心地いい声。

 涙でよく見えないけれど、それが誰か、なんてすぐにわかった。


「……どうしたんだよ」


 どうしよう。泣いてるところなんて見られて、颯見くんに無駄な心配をかけてしまってる。


 ささ、と制服の袖で涙を拭った。


「え、えっと……目に、ゴミが、入ったみたい、で……」


 そう言うと、颯見くんの整った顔が少し歪んだ。


「ウソつかないでよ」


 まっすぐに射抜くような鋭い目を向けられて、何も答えられなくなった。


 すごく真剣な顔。

 いつも颯見くんが話しかけてくれるときとは違う、張り詰めた空気。

 
 人から、こんなにまっすぐに見られることは初めてで、思わず肩に力が入る。

 颯見くんは、あ、と呟いて、そのふわりとした黒髪にくしゃっと片手を当てて、目をそらした。


「ごめん、哀咲、こわがらないで。俺、哀咲が泣くの黙って見てられないんだ」


 トクン、と、胸の奥が鳴った。


「ほんとは黙ってそばにいたり、そっとしておくものなのかもしれないけど、」


 颯見くんの横顔にかかる髪が、少し揺れる。


「俺、すげぇ自分勝手だからさ、泣いてた理由話してくれないと、ここ離れらんねぇよ」


 颯見くんが髪に当てていた手を下ろして、ゆっくり私に顔を向けた。

 なぜだか、心臓が、緊張とは違うリズムで音をたてる。


「ゆっくりでいいんだ。話してほしい」


 颯見くんはそう言って、あのいつもの顔で、くしゃっと笑った。