「哀咲、」



後ろから名前を呼ばれて、鼓動が揺れる。



顔を振り向かせると、何人か後ろに並んでいたはずの颯見くんが、真後ろにいて、また心臓が音を鳴らした。



「しんどくなったら早めに言って」



優しい声が、気持ち悪さを拭った。



「俺、保健委員だからさ」



クシャッと笑った顔に、トクンと胸の奥が鳴って、慌てて頷いた。



じゃ、と、元の整列に戻った颯見くんを見届けて私も前を向く。



まだ、鼓動が訴えるように主張している。



好き。




どうしてこの気持ちを抑えようとしていたんだっけ。



そんなことを思いかけて、慌ててその考えを振り落とした。



好きでいたら、迷惑をかけるからだ。


釘を刺されたからだ。



そう自分を制しながら、好きでいてもいいんじゃないの?、と訴える自分がどこかにいる。



昨日のせいで、また傲慢になってしまったんだ。



颯見くんが私のことを気にかけてくれていたから。


今さっきも。



もしかしてまた、期待してるんだろうか。



そうだとしたら、私はとことん厚かましい。


甘えすぎてる。



あれ、でも、もっと甘えてって言われたことあったな。




そんなことを思って、またその傲慢な考えを振り落とした。