消極的に一直線。【完】

「まさか本人の前で言うとは思わなかったよ」


「驚いたよね」


「だってムカついたんだもん。練習するのが馬鹿らしくなっちゃって」


 笹野さんと佐藤さんと大西さんの声が高らかに響いている。

 
 私のことを話しているのは、すぐにわかった。

 心臓がバクバクと嫌な音をたてて、この場から離れたいのに、脚が床に縫い付けられたみたいに動かない。


「てかさ、」


 大西さんの声が、いやに耳に入ってくる。


「誰とも群れない一匹狼気取っててさ。ああいう態度前からムカついてたんだよね」


 その言葉は、やけに静かに響いた。


「あー、わかる。絶対あたし達のこと見下してるよね」


「一人が好きならムカデ競争やらないでほしい」


「あいつだけ、いっつもうしろにこけてたじゃん。どう考えてもあいつが原因じゃん」


 心臓の音がうるさい。胸に何かがつっかえたように、息苦しい。

 もう嫌だ。離れたい。離れたい――。


 そんな思いがやっと届いたのか、私の脚は、堰を切ったように廊下を走りだした。


 苦しい。苦しい。息がうまく吸えない。

 廊下は走っちゃだめよー、なんて声を耳の端で聞きながら、ただただ、何かから逃げるように走った。