別に、雫が嘘をついてるとか、そういう話じゃない。



だけど、“大前提”さえなければ、誰が見ても一目瞭然、バカなぐらいまっすぐ、颯見は雫が好き、にしか見えないよ。



まぁ、その“大前提”が厄介なんだけどさ。



わかんない。ああもうほんとに。



「ぜんっぜんわかんないわ」


「ん? えっと、どの問題?」



雫に視線を向けられて、はっと我に返った。



「あ、いやごめん。気にしないで」



キョトンとした顔を向ける雫に苦く笑って、広げたままになってる問題集に視線を落とした。



雫がそれを見届けて、また自分の勉強を始めたのを視界の端で確認して、再びそっと視線をあげる。





今、雫は何を思いながら勉強してるんだろう。



ううん、そうじゃない。
何も考えられないように必死に勉強にしがみついてる、ように見える。



あたしはその雫の苦しみを取ってあげることが出来ない。



それが出来るのは、颯見と中雅鈴葉だけだから。



雫を傷付けた颯見も中雅鈴葉もムカつくけど、あたしのその個人的な感情は今はいらない。



最近、中雅鈴葉がやたらクラスに近づいてきて何かを躊躇うようにすぐ去って行くのを、あたしは知ってる。

雫はたぶん気付いてないけど。



たぶん目的は颯見でも真内でもなくて、雫。


雫に何か話しかけたそうにしてる。



悔しいけど、あたしには何も出来ないから。



だから、今度中雅鈴葉が来たときは、中雅鈴葉を後押ししようと思った。



中雅鈴葉の為にじゃない。

雫の為に。





~倖子side end~