また、静かになる保健室。



倖子ちゃんも帰ったのかな。



そう思ったら、スタ、スタ、と颯見くんのとは違う足音が近づいてきて、ポスッとベッドの左側が揺れた。



「雫、ごめんね」



優しく落ちてきた倖子ちゃんの声。



それが耳に届いた瞬間に、たくさんの感情がぐちゃぐちゃに混ざって、喉の奥にぐっと詰まった。



鼻の奥がツンと痛くなって、閉じた瞼の裏が熱く潤ってくる。



泣いてはだめ。
絶対にだめ。



そう思うのに、どんどん湧いてくる。



止まってほしい。
もうこれ以上倖子ちゃんに心配をかけたくない。


寝ていたことにしたい。

何も気付かれたくない。



拳を握りしめて、喉の奥に力を入れて、何とかギリギリのところを踏みとどまる。





「ただいまー。誰かいるのかしら?」



保健室の先生の甲高い声が響いて、パサ、と倖子ちゃんが立ち上がったのがわかった。



その瞬間に、ふわっと緊張の糸が緩んで、喉の奥の力がすぅっと抜けていった。



「あ、先生。この子、具合悪くて寝かせてます」


「あら、えーっと、」


「哀咲さんです。私は友達で付き添いです」


「あらまあ。また貧血かしら?」


「いいえ、顔色が悪かったみたいで先生が――」



紡がれていく会話を耳に流しながら、安心感に揺られて、急激に思考が閉ざされていく。



そういえば最近はよく眠れていなかったなぁ、なんて遠くなる意識の向こうで考えながら、重くなる瞼に身を委ねた。