「……おい嵐。お前、保健委員だったよな」



颯見くんを呼ぶ太吉先生の声に、ピクリと鼓動が反応してしまった。



「え、そうだけど」



颯見くんの声。

涙を引かせることに集中しなきゃいけないのに、鼓動が跳ねたのと同時にチクリと痛みが走る。



「哀咲が具合悪そうだから保健室連れてけ」



先生の言葉に、思わず、はっと息を吐いた。



え、と隣からも、戸惑う声が聞こえる。






「せんせー!」



前の席の倖子ちゃんが、パシッと手を挙げた。



「おー、なんだ寺泉」


「あたしが保健室に連れて行きます」



粛然と言い放った倖子ちゃんに、先生が一瞬たじろいで、すぐに「いや、」と続ける。



「寺泉は教室に残れ。嵐が哀咲を連れて行け」


「でも先生、」


「担任命令だ!」



倖子ちゃんの反論を遮って言い切った太吉先生に、倖子ちゃんの延びた手が力なく降りる。



倖子ちゃんがそう言ってくれたのは、私のことを心配してくれたから。



こうやって倖子ちゃんにまで気を遣わせてしまっていることが、本当に申し訳ない。