「あ、雫ちゃんだ! おはよう!」



透き通る声が、背中の方から私の名前を呼んだ気がして、鞄をまさぐっていた手を止めた。



この学校で私に声をかけてくれる人は、一人しかいない。


振り向くと、予想通り。

花のような笑顔を向けて、自転車を押しながら小走りで近づいてくる中雅鈴葉(なかまさすずは)ちゃん。



胸辺りまでのまっすぐな黒髪がさらさらと風になびいて、程よい短かさの制服のスカートも走るたびに揺れて。

その整った顔立ちと、春の花のような雰囲気が、私の目も周りの目も惹きつけて離さない。



鈴葉ちゃんは、そのとび抜けて整った容姿と、明るく誰にも隔たりのない性格で、高校入学当初から人気者。

今や、ファンクラブまで出来たらしい。



「お、おはよう!」



私が応えると、鈴葉ちゃんはまたふわりと笑った。