「で、」
颯見くんが、私の前の席の椅子をガタっと引いて、背もたれを前にして跨った。
「哀咲は何の種目?」
急に声がこちらに向いて、へ、と息が漏れる。
「え、え、えっと……」
不意打ちだったから、鼓動が少し速い。
でも、颯見くんは、何も言わないまま、急かさずに私の言葉を待っていた。
その瞳が、すごく優しく感じて、緊張がスーッと解けていく。
「ムカデ競争……だよ」
私が言うと、颯見くんは満面の笑顔を浮かべた。
「そっかぁ! 応援する!」
ほらまた。私の心に、春風が吹いた。
「おいおい、嵐。他のクラス応援してどうすんだよ」
朝羽くんが少し笑いながら言うと、颯見くんも、確かに、と笑った。
「まぁけどリレーは絶対負けねぇからな。特にカズには」
「こっちこそ負けないよ。今までリレーは僕が全勝。負けたことがない」
「毎回僅差だろ、今回は勝ち譲ってもらう」
「いや、今回も譲らないよ。……カッコいいとこ見せたいし」
「俺だって今回は……カッコいいとこ見せたい」
聞いていて、何となくその相手が鈴葉ちゃんだということに気付いて。
どうしてか、胸の奥がモヤモヤと渦を巻いた。
「……なるほどね。嵐のいつもの負けず嫌いってだけじゃないんだな」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ尚更負けられない。アンカーとるよな?」
「おう、アンカーにする。今回は絶対勝つから覚悟してろよ」
颯見くんの力強い言葉。すごいなぁって思うのに、その言葉の裏に鈴葉ちゃんへの想いを強く感じて、なぜだか気分が暗く沈む。
同じ女性を好きになった朝羽くんには負けたくないっていう強い意気込み。隠しもしない、真っ直ぐな思いが伝わってくる。
本当に鈴葉ちゃんのことが好きなんだなぁって尊敬する――べきところなのに、どうしてだろう。
胸の奥で渦巻くモヤモヤした何か。その正体がわからず心の中で首を傾げていると。
ふと、颯見くんの淀みのない視線が真っ直ぐ私に向いた。
「俺が勝つところ、哀咲も見てて」
そう言った颯見くんが優しく笑った。
想定外に突然声を向けられたから、驚きか、緊張か、鼓動がトクトクと音を鳴らす。
さっきまでのモヤモヤがどこかへ行ってしまった。
「おいおい、他のクラスの応援強要するなよなー」
朝羽くんが、少し穏やかに笑っている。さっきまでのバチバチと音でもしそうな態度が解けている。
私の胸の奥は沸いた熱が抜けない。
「颯見ー、時間!」
クラスの誰かが叫んだ。
颯見くんに時報を告げる習慣がこのクラスに身に付いてしまっていた。
「お、サンキュー」
颯見くんがハッと時計を見て立ち上がる。何度も見た流れ。
「じゃあまたな」
今日も颯見くんは別れ際に私の心の中に春風を吹かせて、颯爽と教室を出て行った。
颯見くんが、私の前の席の椅子をガタっと引いて、背もたれを前にして跨った。
「哀咲は何の種目?」
急に声がこちらに向いて、へ、と息が漏れる。
「え、え、えっと……」
不意打ちだったから、鼓動が少し速い。
でも、颯見くんは、何も言わないまま、急かさずに私の言葉を待っていた。
その瞳が、すごく優しく感じて、緊張がスーッと解けていく。
「ムカデ競争……だよ」
私が言うと、颯見くんは満面の笑顔を浮かべた。
「そっかぁ! 応援する!」
ほらまた。私の心に、春風が吹いた。
「おいおい、嵐。他のクラス応援してどうすんだよ」
朝羽くんが少し笑いながら言うと、颯見くんも、確かに、と笑った。
「まぁけどリレーは絶対負けねぇからな。特にカズには」
「こっちこそ負けないよ。今までリレーは僕が全勝。負けたことがない」
「毎回僅差だろ、今回は勝ち譲ってもらう」
「いや、今回も譲らないよ。……カッコいいとこ見せたいし」
「俺だって今回は……カッコいいとこ見せたい」
聞いていて、何となくその相手が鈴葉ちゃんだということに気付いて。
どうしてか、胸の奥がモヤモヤと渦を巻いた。
「……なるほどね。嵐のいつもの負けず嫌いってだけじゃないんだな」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ尚更負けられない。アンカーとるよな?」
「おう、アンカーにする。今回は絶対勝つから覚悟してろよ」
颯見くんの力強い言葉。すごいなぁって思うのに、その言葉の裏に鈴葉ちゃんへの想いを強く感じて、なぜだか気分が暗く沈む。
同じ女性を好きになった朝羽くんには負けたくないっていう強い意気込み。隠しもしない、真っ直ぐな思いが伝わってくる。
本当に鈴葉ちゃんのことが好きなんだなぁって尊敬する――べきところなのに、どうしてだろう。
胸の奥で渦巻くモヤモヤした何か。その正体がわからず心の中で首を傾げていると。
ふと、颯見くんの淀みのない視線が真っ直ぐ私に向いた。
「俺が勝つところ、哀咲も見てて」
そう言った颯見くんが優しく笑った。
想定外に突然声を向けられたから、驚きか、緊張か、鼓動がトクトクと音を鳴らす。
さっきまでのモヤモヤがどこかへ行ってしまった。
「おいおい、他のクラスの応援強要するなよなー」
朝羽くんが、少し穏やかに笑っている。さっきまでのバチバチと音でもしそうな態度が解けている。
私の胸の奥は沸いた熱が抜けない。
「颯見ー、時間!」
クラスの誰かが叫んだ。
颯見くんに時報を告げる習慣がこのクラスに身に付いてしまっていた。
「お、サンキュー」
颯見くんがハッと時計を見て立ち上がる。何度も見た流れ。
「じゃあまたな」
今日も颯見くんは別れ際に私の心の中に春風を吹かせて、颯爽と教室を出て行った。
