「あ。嵐また来たか」

 
 斜め前の席で朝羽くんが呟いた。

 それを、耳がキャッチすると、さっきまで渦巻いていたものが消え失せる。


 廊下の方へ目を向けると、教室のドアの枠に手をかけてくしゃっと笑う、颯見くんの姿。

 それを目に捉えた瞬間に、胸の中で何かがポッと熱くなる。


「カズー! 体育祭の種目、何?」


 言いながら、朝羽くんの席へ近づく颯見くん。必然的に、私と颯見くんとの距離も近づいていく。


「リレーだよ」


 朝羽くんが答えると、颯見くんは「だと思った」と笑った。


「嵐は?」


「リレー。ちなみに鈴葉も」
 

「やっぱり」

 
 すらすらと連なる会話を聞きながら、リレーに出るなんてやっぱりすごいなぁ、なんて思った。


 私は走るのが遅いから、リレーは大嫌いだった。

 せっかく、前の順番の人が、何人か他の子を追い抜かしても、私にバトンが回ると、全部追い抜かされてしまう。

 迷惑をかけてしまうから、リレーなんて絶対に選べない。