「カズは充分鈴葉のヒーローだろ」



颯見くんの柔らかな声が、私の思考を遮った。



「カズ以上に鈴葉を守れるやつなんて他にいない。鈴葉だって気付いてるよ。ヒーローは俺じゃなくてカズだ」



そう言った颯見くんに視線を移すと、颯見くんは優しく笑っていた。



「……嵐は優しすぎるよ」



その言葉の意味は、私にはわからない。

だけど、何か私には踏み込めない深い会話をしている気がした。




「颯見ー! 時間やべーぞ!」



クラスの誰かが叫んで、颯見くんがガタッと立ち上がる。



「やべー、急いで戻らねーと」



そう言って、駆け足で机を離れた颯見くんが、何かを思い出したかのように立ち止まって振り返った。



「哀咲、」



不意に呼ばれて、颯見くんと、ばち、と目が合う。



少しだけ、緊張が駆け抜けた。






「またな」








また、吹いた。春風。







「あ、うん」



私が応えると、颯見くんはくしゃっと笑って、教室を出て行った。