――幼なじみ二人は鈴葉ちゃんを取り合ってる。

 本当に、そうなんだ。

 なぜか、胸の奥がキュッと締め付けられて痛んだ。


「……何だよそれ。別にそんなんじゃ――」
「颯見ー! 時間やべーぞ!」


 颯見くんの声を遮るように、クラスの誰かが叫んだ。颯見くんは慌ててガタッと立ち上がる。


「やべー、急いで戻らねーと」


 そう言って、駆け足で机を離れた颯見くんが、何かを思い出したかのように立ち止まって振り返った。


「哀咲、」


 不意に呼ばれて、颯見くんと、ばち、と目が合う。少しだけ、緊張が駆け抜けた。


「またな」


 また、吹いた。春風。


「う、うん」


 私が応えると、颯見くんはくしゃっと笑って、教室を出て行った。