「俺さ、」



颯見くんが、その黒髪にクシャッと片手を当てて、彼の顔が半分隠れた。





「もっと、哀咲の近くにいきたい」






スッと片手を下ろして、また視線が繋がる。



ドクン、ドクン、と、自分の心臓の音だけが、響いている。



時間が止まって、息をすることすら忘れそうになった。



しばらくして、吐き出した息とともにゆっくりと思考回路が動き出す。






これは、いったい、どういう意味なんだろう。




颯見くんの表情からは何も読み取れなくて、都合の良い私の脳は、勝手に私が嬉しい方へ解釈しようとする。








「おーい颯見ー!」



パタパタっと男子が駆け寄る音が聞こえて、ハッと颯見くんから視線を逸らした。



「帰ってこないから呼びに来た」


「あー、悪いな」


「あれ、哀咲さんも?」



言われて慌てて、結構前に注がれ終わっていただろうオレンジジュースを手にとった。



部屋に戻ろうと、俯きがちに頭を下げる。



「あ、哀咲!」



進みかけた足を、颯見くんの一声に止められた。



まだ早いテンポで刻まれたままの鼓動を耳で聞きながら、ゆっくり振り返る。




「さっき、頑張ったな!」



クシャッと笑った、いつもの颯見くんの笑顔。



揺れる心臓。

やっぱり、私は颯見くんが好き。



好きだから、きっと、何でもないことに期待したくなってしまうんだ。



何でもない一言一言に、一喜一憂してしまう。





「なぁ颯見、ペプシとコーラどっちが良いと思う?」


「俺は絶対コーラ!」




歩きながら、頭の後ろから聞こえる会話に、颯見くんはコーラが好きなんだなぁって。


やっぱり一言一言を気にしている自分がいた。