「雫、席見に行こ」



そう言って黒板を見に行く倖子ちゃんの後ろを、小走りでついていく。



黒板に小さく書かれた席順に目を通そうとしたその時、ガラッと教室のドアが開いた。



反射的にドアに視線を向けて、あ、と声が漏れる。
数人の男子に囲まれた、颯見くん。



ドクン、ドクン、と、心臓が音を立てる。



笑いながら男子と話していた颯見くんの視線が、すぅっと私に向いた。






繋がった視線。





どうしたらいいかわからなくてただ突っ立っている私に、颯見くんが一歩一歩近づいてきた。



近付く距離に心臓が耐えられなくなって、思わず顔を俯ける。







「哀咲、」



颯見くんの足が、私の前で止まった。



「同じクラス。よろしくな」



優しく落ちてきた声に、ゆっくりと顔を上げると、クシャッと笑った颯見くんの顔が目に入った。



トン、と胸の中で音が鳴る。



「よ、よろしく、お願い、します」


「おう!」



春風が、吹く。



「あ、席順、俺にも見せて」



あんなに戒めていたはずなのに、春休みの間に忘れちゃったのかな。



私が抱いたこの感情は、叶うはずないって、あんなに思い知ったはずなのに。