朝羽くんが、目を見開いて不思議そうに、私と“アラシ”くんの顔を交互に見ている。
「二人は知り合い? てか哀咲さんが授業以外で喋ってるの初めて聞いた」
「知り合いだよ。な?」
柔らかな春の風が吹く。胸の中にぽん、と何かが咲く。
「へぇ……」
朝羽くんはまだ目を見開いたまま独り言のように呟いた。
“アラシ”くんは朝羽くんの反応を気にも留めない様子で、「そういえばさ、」と続けた。
「哀咲に俺の名前言ってなかったよな?」
「……は……うん」
彼に訊かれて、少し焦った。
本当は、知ってる。鈴葉ちゃんから何度も聞いた名前。“アラシ”くん。
「ソウミアラシっていうんだ。えっと漢字は……」
そう言って彼は、朝羽くんの筆箱から勝手にシャーペンを取り出して、私の机にペン先を当てた。
一文字一文字、彼の名前が、彼の手で、書かれていく。
『颯見 嵐』
机に表れたその文字を、頭に焼き付けたくて、彼が書き終わった後もずっとそれを見つめていた。
そうか、颯見くんっていうんだ。
なんとなく、彼にぴったりな名前だと思った。
「おい嵐、僕のシャーペン当たり前のように使うな」
「なんだよ今さら。いつものことじゃん」
「いや、このシャーペンはだめだ。鈴葉が誕生日にくれたものだからな」
「はいはい悪かったな」
二人の流れるような会話の中に鈴葉ちゃんの名前が出てきてドキッと心臓が跳ねた。
そうだ。この二人が鈴葉ちゃんの幼なじみ。鈴葉ちゃんを取り合っている二人。
なんだか、胸の奥をギュッと締め付けられるような感覚がして、二人から目を逸らした。
「そもそも他人の机に勝手に名前書くなよ、哀咲さんが可哀想だろ」
「え、あー……そうだよな、ごめん哀咲。嫌だった?」
ふと声を向けられて視線を戻すと、颯見くんの綺麗な瞳と目が合って鼓動が鳴った。
「そ、そんなこと、ない」
首を横に振ると、くしゃっと彼が笑って、春風が吹く。
「じゃあ俺の名前、ちゃんと覚えてて」
彼の声が、優しく春風に運ばれてくる。
「二人は知り合い? てか哀咲さんが授業以外で喋ってるの初めて聞いた」
「知り合いだよ。な?」
柔らかな春の風が吹く。胸の中にぽん、と何かが咲く。
「へぇ……」
朝羽くんはまだ目を見開いたまま独り言のように呟いた。
“アラシ”くんは朝羽くんの反応を気にも留めない様子で、「そういえばさ、」と続けた。
「哀咲に俺の名前言ってなかったよな?」
「……は……うん」
彼に訊かれて、少し焦った。
本当は、知ってる。鈴葉ちゃんから何度も聞いた名前。“アラシ”くん。
「ソウミアラシっていうんだ。えっと漢字は……」
そう言って彼は、朝羽くんの筆箱から勝手にシャーペンを取り出して、私の机にペン先を当てた。
一文字一文字、彼の名前が、彼の手で、書かれていく。
『颯見 嵐』
机に表れたその文字を、頭に焼き付けたくて、彼が書き終わった後もずっとそれを見つめていた。
そうか、颯見くんっていうんだ。
なんとなく、彼にぴったりな名前だと思った。
「おい嵐、僕のシャーペン当たり前のように使うな」
「なんだよ今さら。いつものことじゃん」
「いや、このシャーペンはだめだ。鈴葉が誕生日にくれたものだからな」
「はいはい悪かったな」
二人の流れるような会話の中に鈴葉ちゃんの名前が出てきてドキッと心臓が跳ねた。
そうだ。この二人が鈴葉ちゃんの幼なじみ。鈴葉ちゃんを取り合っている二人。
なんだか、胸の奥をギュッと締め付けられるような感覚がして、二人から目を逸らした。
「そもそも他人の机に勝手に名前書くなよ、哀咲さんが可哀想だろ」
「え、あー……そうだよな、ごめん哀咲。嫌だった?」
ふと声を向けられて視線を戻すと、颯見くんの綺麗な瞳と目が合って鼓動が鳴った。
「そ、そんなこと、ない」
首を横に振ると、くしゃっと彼が笑って、春風が吹く。
「じゃあ俺の名前、ちゃんと覚えてて」
彼の声が、優しく春風に運ばれてくる。
