地元一のマンモス校に進学した、俺と鈴葉とカズ。俺と鈴葉は同じクラスになり、カズは遠く離れたクラスになった。
俺とカズはサッカー部に入り、鈴葉はサッカー部のマネージャー。帰りはいつも三人で帰る。
新しい友達もたくさん出来て、中学より速く進む授業や課題の多さに苦戦しながらも、なんとなく楽しく高校生活を過ごしていた。
だけど一つだけ。小さく深く空いた心の穴。
もう、あの子には会えない。
本当にもう天命に祈ることしかできなくなってしまった今。記憶からかたどられたあの子の姿が、頭から消えない。
会いたい。
何も残されていない今になって、後悔している。
姿を見るだけで満足して、終わらせるんじゃなかったって。鈴葉といれば話せる日が来るかもなんて、受け身でいるんじゃなかったって。
今になってそんなことを後悔してももう遅い。こんなにどうしようもなく、会いたいのに。
「つまり高校生活というのは、切磋琢磨、文武両道――」
蒸し暑い体育館に、定年越え疑惑が浮上している校長の、震えた声が響いている。
部活と遊びで一瞬にして夏休みは過ぎ去り、今日は始業式。高一の二学期が始まる。
熱のこもった空気の悪い体育館で、クラスごとに並び、立ったまま校長の話を聞くこの儀式。に、たぶん生徒のほとんどは意味を見出せていない。
俺もその内の一人。とりあえず話は聞いているけど、頭には全く入ってこない。
「なぁなぁ颯見」
同じクラス且つ同じサッカー部の吉田が、隣から俺の腕を遠慮なくバシバシ叩いてきた。
「いてーよ、どうした?」
振り向くと目に映ったのは、小柄な吉田の明るい茶髪。それからゴムで結んだ噴水みたいな前髪。
「ほらあれ見ろ。誰か倒れたっぽいぞ」
クイックイッと視線と顎でどこかを指す吉田。そのたびに前髪がピョンピョンと揺れ動く。
「相変わらず元気だな、その前髪」
「ありがと!」
「褒めてねぇ」
そんなやりとりをしながら、指された先に視線を送った。
「ん? 何あれ」
だいぶ離れた場所。
ザワザワとそこだけ小声の声が渦巻いて、先生が集まっている。
「だから倒れたんだって。貧血とかじゃね?」
「貧血……」
倒れたらしい見知らぬ誰かが少し心配になってそこを見つめた。
群がる先生達の隙間からチラリと、騒ぎの中心人物がのぞく。
「えっ……」
息が、止まった。
雪のように白い肌。長いおさげ髪。力なく後ろの男子に委ねられた華奢な体。
何度も頭の中でかたどっていたあの子。ずっと会いたかった。あの子の姿。
倒れた彼女を後ろから抱きとめている男子が、彼女の腹部に腕を回す。
その瞬間に俺は。
「っ、!」
湧き出た衝動に押し出されるように、そこへ走り出していた――。
なぁ。もう、俺は遠慮なんかしねーから。
目を覚ましたら、その瞳に俺を映して。俺のために声を聞かせて。
いや、声を聞かせなくてもいいから俺に笑って。
それから――。
-Fin-
俺とカズはサッカー部に入り、鈴葉はサッカー部のマネージャー。帰りはいつも三人で帰る。
新しい友達もたくさん出来て、中学より速く進む授業や課題の多さに苦戦しながらも、なんとなく楽しく高校生活を過ごしていた。
だけど一つだけ。小さく深く空いた心の穴。
もう、あの子には会えない。
本当にもう天命に祈ることしかできなくなってしまった今。記憶からかたどられたあの子の姿が、頭から消えない。
会いたい。
何も残されていない今になって、後悔している。
姿を見るだけで満足して、終わらせるんじゃなかったって。鈴葉といれば話せる日が来るかもなんて、受け身でいるんじゃなかったって。
今になってそんなことを後悔してももう遅い。こんなにどうしようもなく、会いたいのに。
「つまり高校生活というのは、切磋琢磨、文武両道――」
蒸し暑い体育館に、定年越え疑惑が浮上している校長の、震えた声が響いている。
部活と遊びで一瞬にして夏休みは過ぎ去り、今日は始業式。高一の二学期が始まる。
熱のこもった空気の悪い体育館で、クラスごとに並び、立ったまま校長の話を聞くこの儀式。に、たぶん生徒のほとんどは意味を見出せていない。
俺もその内の一人。とりあえず話は聞いているけど、頭には全く入ってこない。
「なぁなぁ颯見」
同じクラス且つ同じサッカー部の吉田が、隣から俺の腕を遠慮なくバシバシ叩いてきた。
「いてーよ、どうした?」
振り向くと目に映ったのは、小柄な吉田の明るい茶髪。それからゴムで結んだ噴水みたいな前髪。
「ほらあれ見ろ。誰か倒れたっぽいぞ」
クイックイッと視線と顎でどこかを指す吉田。そのたびに前髪がピョンピョンと揺れ動く。
「相変わらず元気だな、その前髪」
「ありがと!」
「褒めてねぇ」
そんなやりとりをしながら、指された先に視線を送った。
「ん? 何あれ」
だいぶ離れた場所。
ザワザワとそこだけ小声の声が渦巻いて、先生が集まっている。
「だから倒れたんだって。貧血とかじゃね?」
「貧血……」
倒れたらしい見知らぬ誰かが少し心配になってそこを見つめた。
群がる先生達の隙間からチラリと、騒ぎの中心人物がのぞく。
「えっ……」
息が、止まった。
雪のように白い肌。長いおさげ髪。力なく後ろの男子に委ねられた華奢な体。
何度も頭の中でかたどっていたあの子。ずっと会いたかった。あの子の姿。
倒れた彼女を後ろから抱きとめている男子が、彼女の腹部に腕を回す。
その瞬間に俺は。
「っ、!」
湧き出た衝動に押し出されるように、そこへ走り出していた――。
なぁ。もう、俺は遠慮なんかしねーから。
目を覚ましたら、その瞳に俺を映して。俺のために声を聞かせて。
いや、声を聞かせなくてもいいから俺に笑って。
それから――。
-Fin-
